「わたしの吉祥寺」vol.6〜宇根裕子さん
ミュージック目次
伝説のライブハウスSOMETIME。宇根店長にとって「吉祥寺」とは?
吉祥寺カルチャーのルーツ。伝説のライブハウス「SOMETIME」。
レンガづくりの秘密基地風の空間には、ミュージシャン達の情熱が染み込んで、一歩を踏み入れただけで、うわ〜ステキ〜!と感動をおぼえるほど特別な空間です。
店長の宇根裕子(うね ゆうこ)さんは、大田区生まれ、新潟魚沼育ち。あっけらかんとした話し方は「ジャズの店って “通” じゃないとダメかな〜」という不安を一気に吹き飛ばしてくれます。
今回は宇根さんにとっての「吉祥寺」についてお話いただきました。
35年間、SOMETIMEと歩んできた宇根さん。店との出会いは?
学生時代、吉祥寺に住むことになり、当時2階建ての喫茶店だったブックス・ルーエでアルバイトしていた宇根さん。当時サンロード商店街には、オウムを肩に乗せて接客するフルーツ屋さんや、個人経営のカフェなど、個性的な店が軒を連ねていたそう。
歌が好きで、音楽学校にも通う宇根さんの様子を見て、同じく歌を志していたブックス・ルーエの娘さんから「SOMETIMEで働いた方がいいんじゃない?」というアドバイスをもらい、なるほどと早速面接へ。
すると「ルーエで働いてたなら大丈夫!」と即採用になり、早速働き始めることに。
「ブレない経営者」がいる限り、SOMETIMEは大丈夫。
ホール担当からスタートし、27歳の頃、店長になった宇根さん。
20代後半でSOMETIMEをオープンさせた故 野口伊織さんは、イケメンカリスマ社長の顔をもつ一方、筋の通った美学と行動力で、宇根さんをたびたび驚かせていたそう。
ある日、店の水回りが故障し「業者を呼びましょうか〜」と野口氏に連絡すると、真夜中にもかかわらず、店に飛んできて、洒落たDCブランドの服を、ひじまで腕まくりして、躊躇なく排水溝の奥まで手を突っ込んで、あっという間に修理してしまう。「憎いほどにカッコよかった」「ブレない経営者がいる限り、SOMETIMEはだいじょうぶ」と思えたと、思い浮かべる宇根さんの瞳の中に、野口氏のスピリットが今も息づいています。
サムタイムらしさのつくりかた。
SOMETIMEの音楽のあり方も、オープン当時から大きく変化してきました。
当初は、ジャズをしっかり聞かせるよりも、喋ったり飲んだり、好きに過ごせる店を目指していたため、一流ミュージシャンの演奏中でも、お客さんが大声でしゃべることもしばしば。
見かねて「演奏中だけでも声を絞っていただけますか」とお願いすると「そんなこと言われたこと一回もないぞ!」「そんなシケたこと言ってんじゃない!」という反応をされることもあったそう。
どこまでも大らかな宇根さんは「それも世界的な潮流なのだろうと思うよ。昔は混沌。今はクリーン。真剣にやってくれてる人の演奏をゆっくり聞く時代になったね。」と、なんでも笑顔で包み込んでしまいます。
今はミュージシャンにもお客さんにも認められ、ジャズをちゃんと聴きに来てもらえる店になったSOMETIME。
ジャズ界の重鎮からも電話で出演依頼がくるほどの、伝説のライブハウスになったのは、宇根店長を中心に、この店を愛するスタッフ、ファン、アーティストが、たくさんの情熱をこの店に注ぎ続けてきたからだと、肌で感じることができます。
ドキドキしながら階段を降りたら、そこには。
地下に降りていく階段に足を踏み入れるのは、初めはドキドキするかもしれないけれど、一旦エントランスにたどりつけば、目の前に広がるステキな空間にすっかり魅了されます。初めてきた若い子たちは「わーっ!」と感動するそう。
ジャズを愛する人の多い「吉祥寺」という土地柄もあり、お父さんに連れられてSOMETIMEデビューした小学生が、大学生になり友達を連れて食事にきたり、親子3代で通っているファンも多いそう。
座っているだけで心が元気になる。パワースポット。
座っているだけで、この店にしみこんでいる特別なエネルギーが、訪れる人に心に栄養を与えてくれるSOMETIME。
店の内装は、オープン当時のままで、レンガの壁と味のあるディスプレイが、今では逆に斬新です。
45年の歴史が染み込んでる「箱」には、出演してくれたミュージシャンたちの魅力とパワーが宿り「長くやってるからこそ生まれてくるものがある」と宇根さん。夜一人でお店にいると「守られてる感じがする」とうれしそう。
吉祥寺ゆかりの文化人の溜まり場。
宇根さんに「わたしの吉祥寺」のバトンを渡してくれたのは、第4回に登場してくださった、吉祥寺音楽祭実行委員主要メンバーでもある「Planet K」代表の Tiger川名さん。
店が終わり「 (川名氏) ライブが終わった頃に、飲ましてもらいにくる」そう。
「(川名氏) 各々何となく好きな場所があって、くつろいでるよね。」「(川名氏) いい音楽を圧倒的に安いチャージで聴ける場所。ポリシーを感じるね。」と宇根さんと微笑み合う姿に、同業者として互いに深く理解し合っているのが感じられます。
「(川名氏) SOMETIMEは、そもそも階段を降りるのに勇気がいる雰囲気を醸し出してるよね。ジャズハウスの人は怖い人が多いけど、宇根さんの存在でお気軽に足を運べるね。」「(川名氏) ジャズの発表会もやってるし、いい意味で、ただ好きでやってるひとの発表の場にもなっている。」と、吉祥寺の音楽シーンを支える、SOMETIMEの土台の広さについても教えてくれました。
コロナ禍で感じた「つながり」に感謝。
コロナ禍で、SOMETIMEも 4月頭から5月まで休業し、店頭でお弁当販売のみを行なうことに。
そんな時、常連さんはもちろん、そうでない人までお弁当を買いに来てくださり「ここがなくなったら困るのよ」と言ってもらったり、たくさん声をかけてもらい「自分ではそこまで思ってなかったから、本当に嬉しかった。」と改めて、SOMETIMEが吉祥寺の街に愛されていることを痛感したそうです。
コロナ禍で制限の多い中、Tシャツやバッジを購入してSOMETIME をサポートできます。
オシャレなデザインは、じつはお店の階段にあるサインのデザインをプリントしたもの。来店されたら、帰り際、階段を登る時に、天井を見上げてみてください。
45周年を迎えるSOMETIMEのこれから。
最近、用心しながらライブを再開したSOMETIME。
「今まで通りというわけにはいかないけれど、ミュージシャンがちゃんと人前で演奏できることが、すごいうれしいみたい。」と、店長ならではの目線で気持ちを語ってくれました。
「お客さんもそこからエネルギーをもらって、元気になれる。我々スタッフだけでは成り立たない。ミュージシャン、お客さんが、互いにありがとうって思ってる。」と宇根さん。
吉祥寺の「村感」が好き。
吉祥寺には「村感」があると感じている、宇根さん。
知り合いの知り合いは大体知り合い。服を買う時も、食べに行く時も、目的地に一直線。会いたい人に会いに行く感じだそう。
宇根さんのお話をうかがって「宇根さんに会いたくて、SOMETIMEに一直線に向かう人がどれだけ多くいることか」と実感しました。
吉祥寺を愛する方は、必ず一度はSOMETIMEを訪れてみてください。吉祥寺カルチャーの真髄がここにあります。
くわしくは SOMETIME公式サイトでCheck!