吉祥寺美術館「出久根育展」〜チェコからの風 静寂のあと、光のあさ
カルチャー
目次
絵本作家・出久根育のせかい。吉祥寺美術館で開催中。
吉祥寺美術館で、企画展「出久根育展 チェコからの風 静寂のあと、光のあさ」を開催中です。
あたたかくどこか残酷で生命の尊さを思わせる、美しい”赤”と独特な世界観。絵本作家・出久根育(1969〜)の表現の根底にあるのは、幼いころの“かぞえきれないほどの絵本との出会い”でした。

2023年/テンペラ・ガッシュ、紙/ⓒIku Dekune
本展のために描かれたメインビジュアル《わたしはしっているの》は、現在、出久根が展覧会に合わせて制作中の絵本『もりのあさ』(偕成社 2024年刊行予定)につながる世界。
画面手前のベリーの実の“赤”は・・・出久根を象徴する今までの“赤”とはまた異なる美しさを見せています。まさに、本展のサブタイトル「静寂のあと、光のあさ」を具現化したような、チェコの自然の静謐な空気や匂いまでもが伝わって来る作品です。
本展では、約200点の作品を通して、デビューから30年間、真摯に描き続けた出久根の新しい“現在”に至るその魅力を辿ります。
新たな季節を迎えて。絵本作家としての出発点。
国際的に権威ある賞として知られる、ブラチスラバ世界絵本原画展にて、グリム童話『あめふらし』のイラストが、グランプリを受賞してから20年。2002年にプラハに移住してからも20年以上が経ち、出久根育は、現在、絵本作家としての新しい季節を迎えています。

本展では、『あめふらし』はもちろん、チェコの伝統行事を独特の美しい文章で表現したエッセイ『チェコの十二ヵ月 -おどぎの国に暮らす-』の挿絵原画や、愛猫サビンカが登場する、チェコ語を出久根自身が訳した絵本『ぼくのサビンカ』を含め、デビュー作『おふろ』の原画、初期の銅版画、児童文学作家の高楼方子、作家の梨木香歩の物語のために描かれた挿絵原画も多数展示します。

恩師と慕う、スロバキアを代表する絵本画家、ドゥシャン・カーライ(1948-)との出会いを経て、チェコのプリミティヴな要素が、自身の内面とも共鳴するかのように、出久根を中東欧の民話の世界へと誘う過程を追っていきます。

出久根と中東欧の民話の世界。
「この本が生まれたときから私の分身のような存在です」という自身の言葉通り、出久根育の代名詞ともいえる『マーシャと白い鳥』。特徴的なのは、テンペラと油彩を用いて描かれた画面を彩る印象的な“赤”であり、大自然が持つ生命の“赤”。
チェコの国民的画家・デイジー・ムラースコヴァー(1923-2016)との出会いから生まれた『かえでの葉っぱ』でもまぎれもなくチェコの自然が画面に息づいています。2011年には『Živá voda』(日本語版『命の水 チェコの民話集』は2017年刊行)において、チェコのグリムと評される、カレル・ヤロミール・エルベン(1811-1870)が収集した民話の挿絵を担当。エルベンの世界が日本人である出久根の手にゆだねられた意味は大きいものでした。

チェコと日本がつながるとき。
児童文学作家・わたりむつこと組んだ「こうさぎ」シリーズには、チェコの文化や、季節ごとに姿を変える自然の美しさがギュッとつまっており、幼年向けの絵本を描きたいと願っていた出久根にとってのひとつの転機となりました。

そして2023年、出久根が約30年ぶりに手掛けた創作絵本は、子どもの頃の自分自身を投影した物語。今回が原画初公開となる、『わたしのおにんぎょうさん』と『こどもべやのよる』(文:出久根育 岩波書店 2024年2月刊行予定)からは、日本とチェコ、ふたつの国に育まれて辿り着いた、絵本作家・出久根育の現在の魅力が伝わって来ます。
『出久根育展 チェコからの風 静寂のあと、光のあさ』
会期:2024年1月20日(土)~3月3日(日)
※休館日:1月31日(水)・2月21日(水)・28日(水)
開館時間:10:00~19:30
入館料:一般300円、中高生100円
※小学生以下・65歳以上・障がい者のかたは無料
主催:武蔵野市立吉祥寺美術館
協力:ちひろ美術館・岩波書店・偕成社・Gakken・西村書店・のら書店・福音館書店・フレーベル館・ブロンズ新社・理論社
後援:チェコセンター東京
詳しくは吉祥寺美術館サイトでCheck!