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いきものガイドツアーvol.6〜ヤクシカ〜『反芻(はんすう)』の秘密

吉祥寺の自然 いきものガイドツアー

当コーナーでは井の頭自然文化園 動物解説員の草野さんにじっくりお話をうかがい、いきもの達のディープな情報をお届けします。
オンラインでツアー気分を味わったあとは、文化園に足を運んでみてくださいね!!(取材:2020年7月初旬)

あの「もぐもぐ」の正体。

編集部:
さてさて、ヤクシカ達、さっそくエサの時間です!
必死に食べていますね。

夢中でエサをむさぼるヤクシカ

草野さん:
メインのエサは牧草で、エサ用に開発されたものを与えています。今の時期は青々としていますね。冬は干した草が中心です。

編集部:
エサは1日何回ですか?

草野さん:
エサは朝・夕の2回です。食べ終わって10分~15分くらい経つと、ちょっと変な感じでもどし始めて、30分くらいしたら本格的に反芻(はんすう)が始まります。
反芻はご存知ですか?

編集部:
反芻って、あの「もぐもぐ」するやつですか?

草野さん:
ええ。ヤクシカは、ヤギやヒツジ、ウシと同じようにエサを食べたら「反芻」します。
一度飲み込んだエサを口の中にもういちど吐き出して、噛んで、を繰り返します。

編集部:
かなり首が長いですよね。
お腹から口までおえっと戻すんですか?

草野さん:
もちろん!
キリンだって反芻しているんですよ。

編集部:
えー!あの長い首を?

草野さん:
そうです。よく見ると、首元でエサが動いているのが見えますよ。
(編集部注:文化園にはキリンはいません)

動きで言えば、このヤクシカやヤギなんかがよく見えます。
隣のカモシカも反芻していますが、毛がフサフサでちょっと分かりづらいかも。

驚きの反芻システム。

草野さん:
ところで、ヤクシカが葉っぱを食べているように見えますよね?

編集部:
ええ、もちろん。ものすごく食べています。

草野さん:
じつは、シカは草の繊維を分解することができません。
シカのお腹の中の微生物が葉っぱを栄養にしているんです。

反芻する動物には胃が4つあって、そのうち、口から1番目の胃にはものすごくたくさんの微生物が住んでいます。
この微生物に草を分解してもらっているのです。
また、ただ草を分解するだけでなく、タンパク質を合成する微生物もいます。

1番目の胃で微生物に草を分解してもらい、4番目の胃で微生物ごと栄養を消化します。
それで、なぜ反芻をするかということですが、胃の中の微生物が分解しやすいように草を細かく砕いてよく混ぜ合わせているのです。ですので、このヤクシカたちが実際に吸収しているのは草そのものよりも「微生物が分解した物質」と「微生物自体」なんですよ。

編集部:
てっきり草が硬いから、必死でもぐもぐしているのだと思っていました。
自分ではできないことを微生物にやってもらうなんて、すごいシステムですね!

餌から数時間後、午後の反芻タイム。もぐもぐ。

編集部:
質問です!
シカの体内の微生物が草を分解しているということでした。
その微生物は生まれた時からシカのからだに住み着いているんですか?
人間の赤ちゃんは無菌状態で生まれると聞いたので、気になりました。

草野さん:
すばらしい質問ですね!
生まれたばかりのシカの胃に微生物はいません。
ではどうやって微生物をGETするのかというと、、、
赤ちゃんジカは、しょっちゅう母ジカの口元をなめにいきます。
そうやって、反芻で口に戻ってきた微生物をなめとり、自分の体に入れているんですよ。

編集部:
なんと!本能で必要なことがわかっているんですね。

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ヤクシカ基本情報:
哺乳綱 偶蹄目シカ科 ニホンジカ(亜種ヤクシカ)
ニホンジカの中では最も小型の亜種。
鹿児島県屋久島と口永良部島にのみ生息している。
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編集後記
ずっともぐもぐしているな~、草って固いんだな、くらいにしか思っていなかった「反芻」。
まさか、微生物との共同作業中だったとは。栄養の少ない草からエネルギーを取り出すためのコラボレーションに感動です!次回はヤクシカの「ツノ」について、まさかの事実をお届けします。お楽しみに!

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